■句読点の打ち方

現在の「、」(テン、読点)や「。」(マル、句点)は、100年くらい前から使われるようなりました。飛田良文「西洋語表記の日本語表記への影響」(『現代日本語講座 第6巻 文字・表記』明治書院 2002年)には、こんなふうに書いてあります。

(現在の句読点にあたる記号は――しばざき注)12種類もの型があった。……しかし、これら多くの試みは、やがて整理統合されて、……明治39年には、文部大臣官房図書課の『句読法案』によって、「、」と「。」の使い分け表示法が、国定教科書の標準とされた。そして、以後、しだいに一般化し普及して今日に至った。(飛田良文「西洋語表記の日本語表記への影響」81ページより。なお、引用文中に「 」をおぎなった部分がある)

飛田が指摘している『句読法案』とは、文部大臣官房図書課『句読法案 分別書キ方案』(文部大臣官房図書課 1906年)のこと。この資料は、国立国会図書館の「近代デジタルライブラリー」で見ることができます(画像を見る、という形になります)。

『句読法案 分別書キ方案』では、「マル」「テン」「ポツ」(・=ナカグロのこと)「カギ」(「」のこと)「フタヘカギ」(『』のこと)――という5種類の記号を使う、としていました(同書1ページ)。

というわけで、たかだか100年の積み重ねしかない「、」や「。」。みなさんはどんなふうに打っていけばいいか、迷ったことはありませんか? いろいろな基準が示されてはいますが、けっきょくのところ、はっきりした「打ち方の決まり」はない、というのが実情なんですよね。

1. 句点の打ち方

まずは、次の3つの例を見てください。

これら3つの句点の打ち方は、どれもまちがいではありません。句点は文の終わりに打つ、という“いちおうの決まり”はあるものの、これ以上のこまかい決まりはないからです。

したがって、自分なりの句点の打ち方を確立するしかありません。ここでは、次のような打ち方をおすすめしておきましょう。出版業界(フィクションはのぞきます)で採用されている打ち方です。

ちなみに、官公庁の文書は、「 」や( )などのなかに入る最後の文についても、律義に句点を打っています。

2. 読点の打ち方

句点よりも、もっと決まりがないのが読点です。しかし、文章を書くときには、自分なりの打ち方を確立しなければなりません。

てもとにある毎日新聞社編『改訂新版 毎日新聞用語集』(毎日新聞社 2007年)には、読点の打ち方として、次のようなことが書いてありました(444〜441ページ)。なお、( )のなかに書いてある文は、同書であげている例文です(例文としてはムリがあるものもありますが)。

まさに、経験則の集大成、といった感じですね。読点の打ち方に迷っているなら、参考になるでしょう。

用字・用語集のようなマニュアルのほかに、読点の打ち方について本格的に論じている本として、岡崎洋三『日本語とテンの打ち方』(晩聲社 1988年)をあげておきましょう。岡崎は、語順と読点の関係に注目して、こんなふうに指摘しています。

かかる言葉と受ける言葉の関係を明確にするために読点を使い、両者の関係が明確であれば特に読点を必要としない。(『日本語とテンの打ち方』39ページ)

たしかに、語順と読点には密接な関係があります。さきほどあげた『改訂新版 毎日新聞用語集』の例文を見てみましょう。

例文とはいえ、語順にムリがありますよね。次のように書き直せば、読点がなくても意味のはっきりした文になるでしょう。

『日本語とテンの打ち方』はマニュアルではありません。ただ、読点の打ち方を考えることで、“意味のはっきりした文章を書くてがかり”がつかめるのではないでしょうか。

では、私自身の読点の打ち方はといえば、実のところ、かなりいいかげん(笑)。とはいえ、意味の切れ目で打つ、語順を考えてあまり多くなりすぎないようにする、ということくらいは意識しています。私の読点の打ち方について、このウェブサイトを読んでいるみなさんはどんなふうに感じましたか?