■パソコンで入力できる約物(1)

約物(やくもの)とは、句読点やかっこ、■、★などの記号類をひとまとめにしたいいかたです。約物には、

の4種類があります。

ここでは、パソコンで入力できる約物のうち、「くぎりの意味で使う記号類」について説明します。

1. くぎりの意味で使う記号類

くぎりの意味で使う記号類には、次のようなものがあります。

くぎりの意味で使う記号類
記号類よびかた*シフトJISのコード番号たてぐみでの使用
読点(テン)8141
句点(マル)8142
コンマ8143×
ピリオド8144×
中点(ナカグロ、ナカテン、ナカポツ)8145
コロン8146×
セミコロン8147×
疑問符(クエスチョンマーク、耳だれ)8148
感嘆符(エクスクラメーションマーク、雨だれ)8149

*「よびかた」は、「JIS X 0208:1997(7ビット及び8ビットの2バイト情報交換用符号化漢字集合)」(日本規格協会『JISハンドブック 情報処理 用語・符号・データコード編』日本規格協会 1999年)の「日本語通用名称」にしたがいました。( )のなかに入れているのは、出版・印刷業界などで使われている通称です(日本エディタースクール編『標準 編集必携』〔日本エディタースクール出版部 1987年〕、デザイン編集室編『編集ハンドブック第6版』〔ダヴィッド社 1999年〕を参考にしました)。

「たてぐみでの使用」に×がついている約物は、ふつう、たてぐみでは使いません。もっとも、最近では使っているケースもありますが、あまりみためのよいものではありませんね(ただし、たてぐみで“寝かせてくむ”場合は、使ってもかまいません)。

2. くぎりの意味で使う記号類についての豆知識

くぎりの意味で使う記号類についての、ちょっとした情報をまとめておきます。

◆句読点の組み合わせ

句読点には、現在、次の3つの組み合わせが存在します。

いちばんなじみがあるのは、テン・マル方式でしょう。テン・マル方式は、たてぐみでもよこぐみでも使われます。コンマ・マル方式とコンマ・ピリオド方式は、自然科学系の文章でよく使われるやりかた。当然のことながら、よこぐみでしか使われません。

日本エディタースクール編『標準 編集必携』(日本エディタースクール出版部 1987年)は、よこぐみの場合「テン・マル方式では式の終りや文献の終りにつけられるピリオドと混在するので,適当ではない」(43ページ)としてあります(同書はよこぐみで、コンマ・ピリオド方式を採用しています)。

したがって、算用数字のケタくぎりにコンマを使う場合にはコンマ・マル方式やコンマ・ピリオド方式を使う、欧文の文章がひんぱんにでてくる場合にはコンマ・ピリオド方式を使う……といった考え方もあります。

たとえば、次のような翻訳書の注を考えてみましょう。

Mark Gayn, “Jap Film of Atom Bomb Damage En Route Here,” Chicago Sun Times (Evening Edition), 13 May 1946, p. 8. この記事は、INS通信社経由でも配信されている。見出しは「原爆映画大作 アメリカへ」(“Atomic Bomb Film Epic Enroute to U.S.”)。マクガヴァン・コレクションにはこの記事の切り抜きがあるが、日付や掲載紙などの情報は不明である。(ミック・ブロデリック編 柴崎昭則・和波雅子訳『ヒバクシャ・シネマ』現代書館 1999年 242ページより)

引用した部分では、「,」「.」と「、」「。」がごっちゃになっていますよね。こんなふうに混ぜてしまうのはよくないから、よこぐみではコンマ・ピリオド方式にすべきだ、と『標準 編集必携』は主張しているわけです。

でも、私は、あまりこだわる必要はないと考えています。なぜなら、私たちは句読点の形など気にしていないから。句読点は、切れ目がわかればいいものですから、たとえ欧文が混ざったとしても、和文の部分はテン・マル方式に統一しておけばいいでしょう。(欧文の部分は、当然のことながら、コンマ・ピリオド方式になりますが)。

ちなみに、毎日新聞社編『改訂新版 毎日新聞用語集』(毎日新聞社 2007年)では、「横組み文章の区切りには読点と句点を使い、コンマ(あるいはピリオド「.」)は使わない」(448ページ)としています。

◆ナカグロの使い方

ナカグロは、次のようなときに使います。

たとえば、「句読点の組み合わせには、テン・マル方式、コンマ・マル方式、コンマ・ピリオド方式の3種類」と書くときに、ナカグロを使うわけですね。この例からわかるように、ナカグロは“テンよりもよわいくぎり”を表しています。

問題になるのは、外国語の語をくぎるときでしょう。語のくぎりにすべてナカグロを入れるのかどうか。「mail server」を「メール・サーバー」とするのか「メールサーバー」とするのか、という問題です。

この点について、『改訂新版 毎日新聞用語集』では、次のように指摘しています(445ページ)。

「例外的に使う」わけですから、外国語の語のくぎりすべてにナカグロを入れる必要はない、ということですね。

ただ、現実には、ナカグロを入れるのか入れないのか、迷ってしまうことばもあるでしょう。そんなときは、

とすればいいでしょう。さきほどの「mail server」でいえば、私は「メールサーバー」でいいと考えています。さらにいえば、「アウトルックエクスプレス」「インターネットエクスプローラー」でいいわけです。

『改訂新版 毎日新聞用語集』でナカグロを入れるとしている例でも、私は、入れなくてもいいんじゃないか、と考えています。「ケースバイケース」「ジェノバサミット」「ニクソンショック」と書いても、特に違和感はないんじゃないでしょうか。

◆コロンとセミコロンの使い方

日本エディタースクール編『標準 編集必携』(日本エディタースクール出版部 1987年)の「欧文出版物の体裁」という項目では、

となっています。

でも、これだと、すこしわかりづらいでしょう。そこで、てもとにあるアメリカの大学生向けの辞書Random House Webster's College Dictionary 2nd. ed. (New York, Random House, 1997)の「GUIDE FOR WRITERS」(1501〜1506ページ)からまとめてみました。

コロンには、文をくぎるときに使う場合と、注意をうながすために使う場合――があります。

セミコロンには、文をくぎるときに使う場合と、文のなかの要素をくぎるときに使う場合――があります。

こんなふうに説明されると、コロンとセミコロンのちがいが、なんとなくわかってきますよね。

ただ、コロンもセミコロンも基本的には、英語など、「文字にアルファベットを使うかきことば」の約物です。日本語のかきことばでは、せいぜい「注意をうながすために使うコロン」を、よこぐみで使うくらいにとどめておいたほうがいいでしょう。というのも、コロンをたてぐみで使ったときの字形、という問題があるからです。

たてぐみでコロンを使ったところの画像

「JIS X 0208:1997」では「参考」として、図の左側のような字形をあげているのですが、多くのTrueTypeフォントでは、右側のような字形になってしまいます。これでは、2点リーダー(「パソコンで入力できる約物(3)」をどうぞ)と、区別がつきませんよね。

たてぐみでコロンを使いたいときは、すなおに「3点リーダー」に置き換える、などとしたほうがいいでしょう。

なお、英語のかきことばでは、コロンやセミコロンのほか、コンマ、ピリオド、コーテーションマークなどの使い方も、かなり明確に決まっています。代表的なルールとしては、イギリスのオックスフォード大学出版局による「オックスフォードルール」(R. M. Ritter, The Oxford Guide to Style, Oxford University Press, 2002.)、アメリカのシカゴ大学出版局による「シカゴルール」(University of Chicago Press, The Chicago Manual of Style, University of Chicago Press, 2003.)があります。興味のあるかたは、参考にしてください(私は、The Oxford Guide to Styleだけはもっていますが、しっかりと読んでいるわけではありません(^^;)。

◆!や?を組み合わせた記号

印刷物では、!や?を組み合わせて1文字にした記号も使われています。「!!」(ふたつ雨だれ)や「??」(ふたつ耳だれ)、「!?」(ダブルだれ)ですね(「ふたつ雨だれ」などのよびかたは、デザイン編集室編『編集ハンドブック第6版』〔ダヴィッド社 1999年〕によるものです)。

これらの記号を使いたい場合は、半角の「!」や「?」を組み合わせましょう。なお、ダブルだれのならび順は、「!?」と「?!」のどちらでもかまいません(執筆者や編集者の好みによるようです)。

◆!や?のうしろは1字アキにする?

文章中で!や?を使う場合、うしろを1字アキにするかどうか、ということがよく問題になります。すべて1字アキにすべきだ、と単純に主張する人もいるんですが、私は、ケースバイケースで判断すべきだ、と考えています。

とりあえず、例文をどうぞ。

文章中の!や?には、“マル”の代わりとして使う場合と、“」”の代わりとして使う場合があるんじゃないでしょうか。

“マル”の代わりとして使っている!や?のうしろは、1字あけたほうがいいでしょう。文の切れ目がはっきりしますから。一方、“」”の代わりとして使っている!や?のうしろは、1字あける必要はないでしょう。文が切れていないわけですから。

とりあえず、こんなふうに考えてみてはいかがでしょうか。