■和文フォントの基本的な使い方
いろいろなフォントがあると、ついつい、あれもこれもと使いたくなるもの。でも、たくさんのフォントを使うと、ごちゃごちゃしたデザインになってしまいます。すっきりとした統一感のあるデザインにするためには、使うフォントは3〜4種類にとどめておいたほうがいいでしょう。ここでは、和文フォントの基本的な使い方について説明します。
1. フォントのウェイトによる使いわけ
フォントの「ウェイト」をうまく使いわけると、すっきりとしたデザインになります(ウェイトってなに?という人は「フォント選びの基礎知識(2)」をどうぞ)。私は、次のような組み合わせで使っています。
- ・本文に明朝系を使う場合
- 本文……中明朝
- 本文のなかの強調したい部分……中ゴシック
- 見出し類……中ゴシック、太ゴシック
- ・本文にゴシック系を使う場合
- 本文……中細ゴシック、中ゴシック
- 本文のなかの強調したい部分……中ゴシック、太ゴシック
- 見出し類……中ゴシック、太ゴシック
とりあえず、サンプルをごらんください。画像をクリックすると、もっと大きい画像を見ることができます(「なんか地味すぎ……」というきびしい意見もあるとは思いますが、ものがものなので、かんべんしてくださいね(^^;)。
本文に明朝系を使った場合は、こんな感じになります。このサンプルでは、本文に中明朝、見出し類に太ゴシック、柱・リード・欄外の強調したい部分に中ゴシック――を使いました。
本文にゴシック系を使った場合は、こんな感じになります。このサンプルでは、本文に中細ゴシック、本文のなかの強調したい部分に中ゴシック、見出し類に太ゴシック、柱・キャプションに中ゴシック――を使いました。
本文はじっくりと読む部分。ですから、明朝系なら「中」ウェイト、ゴシック系なら「中細」か「中」ウェイトを使いましょう。これらのウェイトより細くても太くても、一般的には読みづらくなります。「フォント選びの基礎知識(2)」で書いたように、ウィンドウズに付属しているMS明朝のウェイトは「細」、MSゴシックのウェイトは「中太」。したがって、本文に使うには、どちらのフォントも、あまり向きではありません(MSゴシックは使ってもいいかもしれませんが、私はちょっと太すぎると思います)。
本文のなかの強調したい部分と見出し類は、本文よりもめだたせなければなりません。めだたせ方としては、
- フォントのウェイトを変える
- フォントの種類を変える
という2つの方法があります。ただ、本文が明朝系の場合は、ウェイトを変えるよりも、フォントの種類をゴシック系に変えてしまったほうがいいでしょう。下の図を見てください。
同じ文字を上から順番に、中明朝(ヒラギノ明朝体4)、特太明朝(ヒラギノ明朝体8)、中明朝(ヒラギノ明朝体4)、太ゴシック(ヒラギノ角ゴシック体6)、中明朝(ヒラギノ明朝体4)――で表示してみました。
中明朝に対して明朝系でめだたせようとすると、特太明朝くらいのウェイト差をつける必要があります。明朝系は文字の線が太かったり細かったりするので、かなり太いウェイトにしないとなかなかめだたないんですね。
一方、中明朝に対してゴシック系でめだたせようとするなら、太ゴシック程度のウェイト差ですみます(特太ゴシックまでウェイト差をつける必要はない)。ゴシック系は文字の線がほぼ同じ太さですから、この程度のウェイトの差でも、十分にめだつわけです。
したがって、本文が明朝系の場合はゴシック系を使ってめだたせる、としたほうがいいでしょう。本文がゴシック系の場合は、明朝系を使ってめだたせるのではなく、もっと太いウェイトのゴシック系を使います。
さて、本文が明朝系でもゴシック系でも対応できるようにするためには、次のようなウェイトのフォントをそろえておけばいいでしょう。
- 中明朝
- 中細ゴシック(あればベストですが、なくてもかまいません)
- 中ゴシック
- 太ゴシック
これらのウェイトをそろえておけば、基本的なデザインは十分にこなせます。
ウィンドウズに付属しているフォントだけでこれらのウェイトがそろえばいいのですが、そんなことはムリ。そこで、パーソナル編集長などのソフトやレーザープリンターに付属する“おまけ”フォントのなかから、これらのウェイトに合いそうなフォントを探す、ということになります。
私が持っている数少ない“おまけ”フォントのうち、これらのウェイトに合いそうなものをあげておきます(ひらがな・カタカナのつまらない「Aタイプ」の和文プロポーショナルフォント名をあげておきました。「Aタイプ」の和文プロポーショナルフォントってなに?という人は「フォント選びの基礎知識(1)」をどうぞ)。
- 中明朝……なし
- 中細ゴシック……なし
- 中ゴシック……「DFP中丸ゴシック体」「HGSゴシックM」「HGS丸ゴシックM」
- 太ゴシック……「HGSゴシックE」
特に「中明朝」がない、というのが致命的ですね。“おまけ”フォントだけでは必要なウェイトがなかなかそろわない、というのが実際のところだと思いますが、とりあえずは手持ちの“おまけ”フォントを確認してみてください。
2. フォントの「ファミリー」をそろえる
フォントの「ファミリー」とは、「フォント選びの基礎知識(2)」で書いたように、「ウェイトはちがうけれどもデザインコンセプトは同じ」というフォントをひとまとめにした言い方。同じファミリーのフォントを使えば、当然のことながら、統一感のあるデザインになります。
さきほどの“地味な”サンプルで使っていたのは、次のようなフォントです(「モトヤEXシーダ」シリーズは、正確には「その他系」のデザイン書体ですが、ゴシック系といっても差し支えないフォントです)。
- 中明朝……モトヤEX明朝3
- 中細ゴシック……モトヤEXシーダ2
- 中ゴシック……モトヤEXシーダ3
- 太ゴシック……モトヤEXシーダ5
私は、“おまけ”フォントだけでは必要なウェイトがそろわなかったので、思い切って、市販のフォントを購入しました。過去にはヒラギノ、リョービ、イワタのフォントも購入したんですが、最終的にはモトヤのフォントに落ち着いています。
ファミリーを作れるような和文フォントは、基本的には“プロ向け”。したがって、高品質である代わりに、それ相応の価格になっています。なにが「高品質」なのかといえば、文字のデザインにつきます。
「和文フォント大図鑑」によれば、MS明朝は「リョービ」の「本明朝-L」をもとに、リコーがデザインしたフォント。MSゴシックは、同じくリョービの「ゴシック-B」をもとに、リコーがデザインしたフォントです。でもって、実際にMSゴシックとゴシック-Bを比べてみると、こんな感じになりました(てもとには「本明朝-L」の「標準がな」ではなくて、「新がな」しかありません。「新がな」は、ひらがなの形がMS明朝とはかなりちがっています。そのため、「ゴシック-B」での比較としました)。
上側のMSゴシックはちょっと頼りない感じのデザインですが、下側のゴシック-Bはしっかりとした印象を与えるデザインです(まあ、主観的な見方とは思いますが)。もちろん、ダブルミニュートの形もちゃんとしています(ダブルミニュートについては、「クルミノ コーボー」のコンテンツ「ことばと文字にかかわるおぼえがき」の「パソコンで入力できる約物(2)」をどうぞ)。
ただ、さきほどもいったように、高品質なフォントはそれ相応の価格です。たとえば、モトヤのオンラインショップ「モトショップ」のサイトを見てください。“おまけ”フォントがあたりまえ、と思っている人にしてみれば、とても信じられない価格でしょう(それでも、TrueTypeフォントは安いほうなんですが)。
価格の問題があるので、だれにでもすすめるわけにはいかないんですが、できればファミリーを作れるような高品質な和文フォントを使ってほしいなあ、と私は考えています。そのほうが、絶対にみためがよくなりますから。
“おまけ”フォントを使うなら、せめて
- 中明朝……MS明朝(「細」ウェイトだが、しかたなく使う)
- 中細ゴシック……HGSゴシックM(「中」ウェイトだが、しかたなく使う)
- 中ゴシック……HGSゴシックM
- 太ゴシック……HGSゴシックE(「特太」ウェイトだが、しかたなく使う)
などという組み合わせにしておきましょう。この組み合わせだと、ゴシック系はファミリーになりますよね(とはいえ、中明朝くらいは市販のフォントにしたほうがいいとは思いますが……)。
なお、みための楽しさがほしければ、明朝系とゴシック系だけでなく、「その他系」のフォントを使うといいでしょう。「その他系」のフォントは、いちばん大きな見出しだけに使うというふうに、“ここぞ”という部分だけに使うのがコツです。「その他系」ってなに?という人は、「フォント選びの基礎知識(2)」をどうぞ。